高松高等裁判所 昭和49年(ラ)5号 決定 1974年5月07日
抗告人 甲野花子
右代理人弁護士 藤原充子
相手方 乙山一郎
事件本人 乙山月子
主文
原審判中主文第二項をつぎのとおり変更する。
相手方は、抗告人に対し、事件本人の監護養育費として、昭和四八年八月から事件本人が一八才に達するまで、毎月末日限り(既に期限の経過した分は本裁判確定の日の翌日限り)、金一万三〇〇〇円宛を抗告人方に持参又は送金して支払え。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙に記載のとおりである。
よって判断するに、一件記録によると、抗告人は、相手方と昭和四三年一二月二三日婚姻し、翌四四年一〇月三一日相手方との間の長女である事件本人を出生したが、その後昭和四七年一一月四日相手方と協議離婚をしたこと、右離婚後、当初は相手方が事件本人を監護養育していたが、昭和四八年二月以降は抗告人が事件本人を相手方から引きとってその監護養育をしていること、抗告人は、相手方と離婚した後は、高知市○○○町×番地の両親方に身を寄せ、昭和四八年一二月までは同市○町○丁目の株式会社高知県○○○○会館に、昭和四九年一月から同年三月二五日までは右同所の社団法人高知県○○○協会に勤めていたところ、右高知県○○○○会館に勤めていた際には、賞与等も含め一ヶ月平均金六万七六九五円の収入(手取)を得ていたこと、一方相手方は、右抗告人と離婚後、高知市○××××番地の両親方で生活をし、高知市内の高知県○○○○事務所に勤務し、賞与等も含め一ヶ月平均金九万一五二〇円の収入を得ていること、しかし相手方は、現在、昭和四〇年頃交通事故によって受けた傷害のためその後遺症状である頭痛、目まい、不眠等があり、そのために高知市内の○○病院に通院するかたわら、一ヶ月二〇日位は、はりの治療を受け、相当程度の治療費を自ら負担支出しているが、そのうち少なくとも一ヶ月約金一万六〇〇〇円程度は必要やむを得ない支出であると認められること、したがって、相手方が現在前記収入のうち実際に一般生活のために消費できるのは、金九万一五二〇円から金一万六〇〇〇円をさし引いた金七万五五二〇円であること、なお、抗告人と相手方は、共有で高知市福井に雑種地約三二坪を有している外は格別の資産がないのみならず、相手方は現在地方職員共済組合から借受けた約六〇万円前後の借入金債務を負担していること、以上の如き事実が認められる。
ところで、未成熟児に対する扶養料を算定するに当っては、親の資産、収入、その生活に必要な費用、子の性別、年令、就業程度の外、親や子の最低生活費やその現実の生活程度等諸般の事情を綜合して決定すべきであるが、さきに認定した抗告人及び相手方の収入を基礎とし、これに労働科学研究所が実態調査をして算出した綜合消費単位指数を用いて事件本人の生活のための消費金額を試算すると、つぎの如くになる。すなわち、
抗告人の月収 金六万七六九五円
相手方の月収 金七万五五二〇円
綜合消費単位 抗告人 九〇(既婚女子の軽作業)
相手方 一〇〇(既婚男子の軽作業)
事件本人 四五(四才―六才)
(1) 事件本人が抗告人と共同生活をした場合に費消すると認められる金額(事件本人の抗告人方における生活程度)
(2) 事件本人が相手方と共同生活をした場合に費消すると認められる金額(事件本人の相手方方における生活程度)
したがって、右の試算によれば、事件本人は、母である抗告人のもとで生活するよりも、父である相手方のもとで生活する方がやや豊かな生活をすることになるところ、親は未成熟児に対しては自己の生活を保持すると同程度の生活を保持させる義務があるから、前記の消費単位指数を用いて事件本人の養育費を算出する場合には、事件本人が相手方のもとで生活した場合の消費金額一ヶ月金二万三四三七円を基準にするのが相当であり、また、これを抗告人と相手方の双方にそれぞれ負担させるとすれば、その各収入額に比例して按分負担させるのが相当である。したがって、右事件本人の養育費を一ヶ月金二万三七四七円とし、これを抗告人と相手方双方に負担させた場合の相手方の負担額は、一ヶ月金一万二四〇〇円となる。
なお、記録によれば、昭和四八年九月の高知県の消費物価指数は一三〇・六であるので、前記綜合消費単位一〇〇の最低生活費は、一ヶ月金一万九一八二円となること、したがって抗告人の最低生活費は一ヶ月金一万七二五五円、相手方の最低生活費は一ヶ月金一万九一八二円、事件本人の最低生活費は一ヶ月金八六二七円であることが認められる。
つぎに、記録によれば、抗告人は、昭和四九年三月二五日限り、従前勤務していた高知県○○○○を退職し、現在無職であるが、抗告人は近く再就職をする予定であり、また、暫くは親族等からの援助も受け得られることが窺えるので、他に特段の反証のない本件においては、抗告人及び事件本人は、今後も従前と同程度の生活を維持し得るものと推認される。しかしてかかる事実に、前述の如き抗告人及び相手方の収入、資産、生活程度、事件本人の性別、年令や、前記労働科学研究所の算出した綜合消費単位指数を用いて試算した事件本人の受け得べき養育料、抗告人、相手方、事件本人の最低生活費等諸般の事情を綜合して考えると、相手方は抗告人に対し、事件本人の監護養育費として、本件について調停申立のなされた昭和四八年八月から事件本人が一八才になるまで、毎月末日限り金一万三〇〇〇円宛を負担して支払うのが相当と認むべきである。
抗告人は、相手方や事件本人の生活のための消費金額を算出するにつき、相手方の治療費一ヶ月金一万六〇〇〇円をその収入額からさし引くのは不当であると主張するが、治療費は、一般の生活のために必要な食費や衣料費等の外に、特別に支出を要するものであり、かつ、その支出は必要不可缺であるし、さらに記録によれば、抗告人の前記治療は、今後かなり長期に亘って継続する必要のあることが認められるから、相手方らの一般の消費支出金額を算出するに当っては、右治療費をその収入額からさし引いて計算するのが相当であるし、また本件監護養育費の決定についても、これを勘案するのが相当であると解すべきである。よって、右抗告人の主張は失当である。
そうだとすれば、相手方に対し、事件本人の養育料として毎月金八〇〇〇円宛の支払を命じた原審判は一部不当であるから、家事審判規則一九条二項により、原審判主文第二項を変更して、相手方に対し、事件本人の監護養育費として昭和四八年八月から事件本人が一八才になるまで一ヶ月金一万三〇〇〇円宛を毎月末日限り抗告人方に持参又は送金して支払うよう命ずることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 秋山正雄 裁判官 後藤勇 磯部有宏)
<以下省略>